Stalwarts vol.3

六神将/リグレットの話

その少年は、常にピリピリとした緊張感を己の身体に漂わせていた。
年齢に似合わず眼光鋭く、笑顔も無く無愛想で、自分の領域を脅かす外部の者に手当たり次第噛み付く。
彼は自分の納得がいかない事をされたり言われたりすると、自分よりも身丈がずっと高く、
身体の大きな兵士達にも躊躇することなく歯向かっていった。
その為か彼にはいつも生傷が絶えない。


しかし、思春期の反抗と呼ぶにはまだ早い、彼の無駄無く切れ味鋭いその立ち回りは流石ヴァン直伝と、
リグレットは思わざるを得なかった。
普段はどちらかというと物静かで頭の回転は速く、受け答えにも卒がない。
躾良く、一通りの作法にも精通している彼には、高貴な出とさえ思える気品が備わっていた。
それでいて何故か蔑んだ様に自らを“聖なる焔の燃えかす、アッシュ”などと呼び、
近寄り難いオーラを纏う彼はさながら、野生の中の孤高の獣の様でもあった。

そんな彼も、やはりヴァンには一目置いている様だった。
身元引受人であり剣の師匠でもある彼に対しては、思慕にも似た感情を抱いているようにも見えた。
通常の彼には見られない、不安と期待が入り混じった眼差しをヴァンに向けている時があることに、
リグレットはいつしか気付いていた。
反目する者や敵もそれなりに多いヴァンだったが、彼にはどこか、ある種の人間を惹きつけて止まない魅力、
のようなものがあるようだった。

幼い頃から獣に育てられ、発見時は野生に近い状態だったというアリエッタを、
ヴァンがダアトへ引き取って育てていた事は聞いていた。
アリエッタは導師守護役になった今でも仕事とは別に、獣達を率いてはヴァンの元へ度々顔を見せにやってくる。
アリエッタにとってヴァンは恩人でもあり、親代わりでもあり、敬慕して止まない人物なのだろう。
アッシュの出所に関してヴァンに聞いた時には、はぐらかされてしまって結局の所は分からないのだが、
彼もそうした内の一人なのかもしれなかった。

事務処理を終えたリグレットがダアト神殿の大扉から外へ出るとそのアッシュが、
はぁ、と一息長い溜息をついている姿が目に入ってきた。
これから何をしようかと途方にくれてでもいるように、階段に座り込んでいる。
そんな彼の姿は珍しい。珍しいというよりも、リグレットは初めて見た。
「・・・・・・。」
リグレットは少し前の、ヴァンの執務室での、自分とアッシュとのやり取りを思い出していた。

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