DropsⅡ vol.2

ED後の話

「─で、この催しとあなたが感じている責任と、一体どんな関連性があるというのですか?」
つとめて冷静な口調のジェイドだったが、内心腹に据えかねている様子で、ピオニーの顔も見ずに言った。
「まぁその内わかるさ。ほら、見てみろよ、あそこの美女。いい身体つきしてんなぁ~♪さすがノワール嬢が自ら集めた団員だ。グレード高いよなぁ?そう思わないかジェイド?」


瘴気の消えた後、ここケセドニアでも、昔のような市場やサーカスが再び開催されるようになっていた。新燃料を使った動機関が開発されたとはいえ、まだまだ軽々と手の届く商品とまではなっておらず、一般市民の移動手段は相変わらず辻馬車のみのため、ケセドニアまで辿り着く人々は、旅の疲れを癒すために何泊か宿屋に連泊するのが通常であった。
その間の人々の憩いの場として、この町に一軒だけある酒場と、暗黒の夢(実質には漆黒の翼だが。)が開催するサーカスには、大勢の人々が集っていた。 ここに来るために私服で、とピオニーは言ったらしい。
「・・・全く。私とした事が迂闊でした。」
ジェイドは渋い顔をしてピオニーを横目で睨んだ。
行き先を知らされていないとはいえ、さすがにグランコクマ内であろうと思い込んでいた為に、道中戦闘があるかもしれないなどとは思いもせず、ピオニーに言われるがまま軽装で来てしまった。案の定、規模は小さいがいまだに活動を続けている当地の盗賊や、未だ蔓延っている獣どもに何度か襲われていまい、私服では当然動きにくく、しかも皇帝を守りながらであるので、戦闘に時間はかかるわ、服は所々破けるわ、で散々な有様であった。
あまりにみっともないので、途中のカイツールや野営場所で繕いものをする事になってしまったジェイドには、その継ぎ接ぎだらけの私服よりかは、やむを得ずケセドニアで購入した、自分に全く似合っていない真新しい戦闘服の方がはるかにましだった。しかしそんな格好をしている自分が、こんなに大勢の人々が集まっている催し物を、心から楽しめるはずも到底なかった。

「陛下。申し訳ありませんが、私は出来るだけ早く帰りたいのですが。」
「ん?まぁ、そう言うなって。─でもその格好じゃ・・・そう思うのも仕方がないか。」
笑いを堪えてまじまじとジェイドを一瞥したピオニーは、この場を離れるのがとても残念だというように、名残惜しそうに外へ出た。
「いやぁ、実はなジェイド。」
早足で自分の前を歩いていたジェイドを、ピオニーはそんな言葉で呼び止めた。
「これがメインじゃないんだよ。本当の目的は別にある。」
「は?!」
呆気に取られているジェイドに、まぁまぁとピオニーはウィンクしてみせた。
「予定時刻より大分早く着いちまったもんでな。軽く時間潰しをしていただけさ。」
「な・・・」
まだ帰れないのだという事よりも、この格好で、まだ他に行かねばならない所がある、という事がジェイドを更に落胆させた。

「まぁ、なんだ、その、・・・結構似合ってるんじゃねぇか?お前があと20才位若ければ。」
と言って、フォローではなくダメ押しをしたピオニーは、むっ、と眉を寄せて振り返ったジェイドの肩越しに、目を疑うような光景を目撃した。
「私はどなたかの様に、分を超えた若作りは基本的に致しませんので。大体において陛下はですね・・・」
この際ですから、陛下の私生活について少々苦言を呈させてもらいますよ、と言葉を続けたジェイドを片手で制し、ピオニーは一点を見続けている。
「俺が言う前に、むこうからやって来ちまったようだな・・・。」
「─え?何です?」
少しだけ考えてから、ピオニーはジェイドに、“─あれ。”とあごをしゃくって見せた。
怪訝そうに振り返ったジェイドの目に、ここでみかけるはずのない、しかしどこか見覚えのある人物の姿が映っていた。

「─ル・・・アッシュ!」
それはさながら、旅人を守って砂漠を付き添って横断する、傭兵達の様な格好をした“彼”の姿だった。
瞬きもせずに“彼”を見続けているジェイドに、ピオニーは言った。
「─今日のメインは、実はこの件だ。」

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