手紙 本編vol.1

ED前ガイの話

ペンを置いてジッとその文面を眺めた後、くしゃくしゃと丸めてゴミ箱に投げ捨てた。
「・・・らしくないな。」
そう呟き、ガイは窓の外に目をやった。
グランコクマの水の流れが、飛沫と共に小さな虹を作っていた。


「あいつも虹を見て大層喜んだっけ。」
バチカルのルークの屋敷で花壇の花々へ水をやる際に、毎日散水栓から放出する水が作る虹を見て、その度に幼いルークは手を叩いて喜んでいた。
わだかまりが無くはなかったが、それでも明るくて笑いの絶えない楽しかった日々。
それはガイにとっても大切な思い出の1コマになっていた。
「まったく、あいつ、一体いつまでほっつき歩いてんだか・・・。」

ブツブツと目の前に相手のいない文句を呟きながら、ガイは自分の部屋を出た。今日は決議をとる議題があるとして、いつもより早めに始まる貴族院へ顔を出す時間が迫ってきている。
「あー。だるいよなぁ。眠くなるんだよ、あのじいさん達の顔見てると。」
マルクト帝国の貴族代表する議会の会議は、ガイを除けば堂々たる顔ぶれの面々ばかりだった。要するに、この若さで当主であるのはガイ位なもので、あとは皆、中年もしくは老人がほとんどなのであった。
会議と称して集まる割には、重要な議題はあまり無く、預言も読まなくなった今では、イエスかノーか解りきった議題すら、延々とあーだこーだと言って、一向にまとまらないのできりが無い。
「・・・今日はサボっちまおうか。」
そう決めた途端、気分が軽くなったガイは、とりあえず毎日の日課である「ブウサギ達の散歩」だけは早目にやってしまおうと、ピオニーの私室へ足早に向かった。
早めに散歩に行った旨のメモを残しておけばいいだろう。
この時間ならピオニーも、やはり今日の貴族院へ顔を出していて留守のはずだ。皇帝も出席しなければならない重要議題とはどの件の事だったっけかな、などと考えながら、通い慣れたピオニーの私室のドアを開けた。

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