夕暮れ vol.2

OP~ED前 ルークとティアの話

「ルーク、大丈夫?!」
すぐ耳元でティアの声がした。
「具合、悪くなった?」
握ったこぶしの隙間から見えるのは、心配そうに覗き込んでいるティアの顔だった。ルークははっ、と我に返り両手を後ろに隠して、
「な、何でもない!へーきへーき!」
と言って硬い笑顔を見せた。


「・・・・・・。」
無理をしているのが一目でわかる。でもそう言ってやせ我慢をしている彼に、自分が何か言って挫かせるようなことはしたくない。
「─そう。ならいいけれど。あ、ごめんなさい、大分待たせちゃったわね。」
ティアもすまなそうに言った。
本当はルークが震えているのも分かっていた。でも彼はそれを一人で乗り越えようとしている。安易な慰めはするべきではない。
実直なティアは自分が支えになってあげたい気持ちを押し殺して、何事も見なかったように続けた。

「彼ね、昔の教団仲間だったの。あの人も私と同じ教官の下で、当時は親しくしていたものだから、つい懐かしくなってしまって。」
あ、リグレット教官ではなくて、と、少し顔を曇らせたルークを見てティアは説明した。彼が顔を曇らせた理由を、彼女はどうやら履き違えているらしい。
「カンタビレ教官というの。私をモース様直下の情報部に所属させる為に、自分が僻地に赴任して下さった恩人なの。どうにかしてもう一度お会いしてお礼を言いたいのだけれど、誰も赴任先を知らないのよ。」
と、普段のティアより余計に多く、早口で話しきった。
「─そっか。その教官っていう人にはかなりお世話になったんだな。」
「ええ、そうなの。」
ここまで一気にまくしたてるようにしゃべったティアだったが、本心は違った。ルークに話したいことは本当はこんなことじゃない。
そう思うと胸がキリリ、と痛んだ。
ルークがじっとこちらを見て次の言葉を待っている。だがその両手は硬く握られたままだ。
言葉を続けようとして、でもうまく発せられないまま、ティアはルークを見つめ返していた。

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